STORY | あらすじと、各話紹介

4話 たたかい


乃木家、園子の部屋。
「こ、これは……やっぱりアタシには……似
合わないんじゃ、ないだろうか……」
「そんな事ないよ〜。ねぇわっしー」
「ええ、とても似合ってるわ銀(カシャ)」
「うおい! やめろ須美、撮るな」
「あー。私も私も、撮影会〜」
園子が、わたわたと端末を取り出す。
「だぁー。はい終わり、もう終わり!」
「あぁ〜脱がないで、私まだ撮ってない〜」
「後で画像を送っておくわ、そのっち」
「くぅ〜〜。須美を着せ替え人形にしようと思ったのに、どうしてこうなった」
須美と銀は、園子の家に遊びにきていた。
そして、園子のフリフリの服装を須美に着せようと銀が提案したとき。
「でも……この服、銀も似合うと思わない?」
須美は前もって考案しておいたカウンターを
お見舞いしたのだった。
「ワッツ? 何をありえない事を……」
「思う! この服とか、ミノさんが着ても、凄く可愛いよ〜」
「いやいやいやアタシこういうの着たことな
いし、スポーティーな感じで売り出してるし」
「じゃあ今こそ可愛い系に挑戦ね、銀」
「ミノさんの更に可愛いところ見てみたい〜」
「くぅ、須美が着る流れだったのに、どうし
てこうなったんだ……いや、まだ手はある!
じゃんけんだ。じゃんけんで負けた方が着る
事にしよう」
「いいわよ。……では私は最初にグーを出す」
「心理戦!?」
こうして、ペースを乱された銀は敗北し、罰
ゲームとして、フリフリ服を着るに到る。
「次の服にいきましょうか、そのっち」
「うん。まだまだ沢山あるんだよ〜」
「いやいやアタシのお着替えタイムはもういいから!」
「えー。あんなに可愛かったの〜」
「そうよ、可愛かったわ」
「か、可愛い可愛い言うな〜!!」
銀は顔が真っ赤になっていた。
ベッドの中に避難して丸くなった銀を、須美
や園子が追い打ちしていた。
「「か・わ・い・い・!!」」
乃木家の使用人達は、園子の部屋からこぼれる談笑を、
微笑ましく聞いていた。

神樹館。
一日の終わり、帰りの会では、生徒皆が心持ちソワソワしている。
早く遊びたい子供心と、先生の話は聞かねばという
神樹館特有のモラルの高さが、ぶつかっているのだ。
須美のクラスでは、担任教師が遠足の説明をしている。
窓から吹き込んでくる爽やかな海風は、七月の暑さを中和していた。
須美は背筋を伸ばして、説明を聞いている。
うとうとしている隣の園子を時々、視線で注意しながら。
園子は立派なリーダーに育てるべく責任持って管理している須美だが、
もう一人までは席が離れていて、注意するには射程距離外だ。
(銀……先生の話はちゃんと聞いてるでしょうね)
須美がチラリと銀を見る。
彼女は目を開いて行儀良く座っていた。
しかし、その目の焦点が定まっていない。
おそらくイメージトレーニングの真っ最中だ。
聞いている態は保っているから、後で軽く注意ぐらいでいいか、
と須美は思った。
ちょっと前ならこれが注意では無く説教になっていただろう。
自分が少しずつ丸くなっている事を須美は実感していた。
(それにしても遠足……大丈夫なのかしら)
なにせ、わずかではあるがこの土地を離れてしまうのである。
お役目に支障が出るのではないだろうか。
須美は放課後、鍛練が終わった後に、この悩みを
仲間達二人に打ち明けた。
「アハハ、須美考えすぎ」
シャワーで汗を流した後、服を着ながら、銀は
須美の悩みを笑い飛ばした。
「でも、遠足している最中にバーテックスが来たらと思うと……」
「勇者になれば、少し離れていても大橋まで
あっという間に到着するから大丈夫だよ〜」
「確かにバーテックス達はいつ来るか分からないのが
むかつくけどさ、考えすぎてちゃ、何も出来なくなるよ。
例えば疲れている今、この瞬間、バーテックスが来たらどうしよう
なんて思ってしまえば鍛練もできなくなるし、
夜、深く眠ることだって難しくなる。
そう思わないかね、鷲尾君ちの須美ちゃんは?」
銀の台詞に、須美がなるほどと頷く。
「……確かに、分かるわ銀」
「だから、でーんと構えて遠足楽しもうよ〜
わっし〜」
「そう、でーんと構えてな。アハハ」
「……二人の精神力が、眩しいわ……」
「てなわけで遠足の班は、アタシ達3人ね」
「ミノさんは、松井さん達の班じゃ無くていいの〜?」
銀が休み時間に、時々サッカーなどをして遊んでいる女の子達だ。
「あぁ。もうまっつんには話しておいたよ。
アタシは、この班がいーんだ」
「ミノさん……」
一人の事が多かった園子にとって、このなにげない銀の台詞は、嬉しかった。
「汗流したばっかりなのに、ひっつくなー」

それから数日後の、昼休み。
給食を食べ終わった後、須美は他の二人を自分の机に呼び寄せた。
「二人には、これを渡しておきたくて」
須美は分厚いプリントの束を、どさっと二人に差し出した。
表紙には“遠足のしおり”と書かれている。
「……須美さん、何スかこれは」
「見ての通り、私達の班のしおりよ銀。データ版は、
今、二人の端末に送っておいたわ」



「オフゥ。これ、わざわざ作ったんか須美」
「遠足……楽しんでいいと思うと、少し張り
切って夜更かししてしまって……予定よりず
いぶん量が増えたわ」
汗をぬぐう所作をする須美。
「わっしーは懲り症さんというか、のめりこむタイプだよね〜」
「いやー将来須美の旦那になる奴は果報者だけど、
色々と大変そうだな」
「何でそういう話になるのよ」
「この三ノ輪銀のような男がいればなー」
「……軽薄そうね」
「須美はちょいジメジメした所があるから、
ぐいぐいリードしてくれる相方がいいと思う」
「人をキノコみたいに言わないでくれる?」
「私のような男の子でも〜わっしーを包んで
……あげられないかな〜ごめん」
「ともかく、このしおりに従えば遠足の用意
は万全! 後は雨が降らないように神樹様に
お祈りしておくぐらいかしらね」
「あ、じゃあ私がてるてる坊主も作っておく
よ〜。それぞれ三人をモデルにして〜」
「でも吊されるわけだからな……シュールじゃないか」
そんな事を話しながらも、遠足に思いを馳せる三人だった。

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